必要があって、文化芸術基本法を勉強している。そこには著作権等についての条文がある。

(著作権等の保護及び利用)

第二十条 国は,文化芸術の振興の基盤をなす著作者の権利及びこれに隣接する権利(以下この条において「著作権等」という。)について,著作権等に関する内外の動向を踏まえつつ,著作権等の保護及び公正な利用を図るため,著作権等に関する制度及び著作物の適正な流通を確保するための環境の整備,著作権等の侵害に係る対策の推進,著作権等に関する調査研究及び普及啓発その他の必要な施策を講ずるものとする。

似たようなことを定めた条文は、前身の文化芸術振興基本法にもある。

これをよく読んでいてふと気がついたのは、著作権法が定めていることと似ているようで、実は根本的な違いがあるのでは?ということだ。

著作権法の第一条と比較してみよう。

(目的)

第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

著作権法が保護しているのは「著作者等の権利」であり、それは「著作物」を保護することによって守られる。この点で両法に大きな差はないようだ。

問題は「公正な利用」の対象である。著作権法では「文化的所産」すなわち「著作物」の「公正な利用」のことを言っているが、文化芸術基本法の「公正な利用」の対象は、素直に読めば「文化的所産」ではなく「著作権等」を指している。

つまり、文化芸術基本法では、「著作権の保護」と「(著作物ではなく)著作権等の公正な利用」を言っている。どうやら権利保護と権利の行使のことだけになっている。

それにつづく条文に「著作権等に関する制度及び著作物の適正な流通を確保するための環境の整備,著作権等の侵害に係る対策の推進,著作権等に関する調査研究及び普及啓発その他の必要な施策を講ずる」とあるように、文化芸術基本法での著作権の扱いは、保護の部分が目立つ。

著作権法の要は、権利の保護と(著作物の)公正な利用のバランスにある。「私的使用のための複製」など、著作権等の一部が制限されるのは、著作物の公正な利用のためである。

しかし、文化芸術基本法では、権利の保護と(権利の)公正な利用と言ってしまっていて、権利制限への言及がない。著作権の扱いについて、文化芸術基本法と著作権法のあいだに、大きな溝があるのではないか。

両法に齟齬があるようにみえるのは、文化芸術基本法が議員立法だったせいで、専門家のチェックが弱かったのだろうか? 文化政策の専門家で、この点を指摘したひとはいないのだろうか。

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