文化審議会著作権分科会法制度小委員会で議論されてきた「AIと著作権に関する考え方について(素案)」がパブリック・コメントにかかっている(2/12まで)。今回は、AIと著作権について現行法での考え方を整理したもので、これをもとに法改正に進むことはなさそうだ。また、今後裁判が起きたときに、この文書が判決に影響することもないだろう。しかし、現場を実務レベルで制約・萎縮させる要因にはなりそうだ。

生成AIの急な進歩を受けて、AIと著作権のことは令和5年度の小委員会の重要課題として現在まで6回の審議がされてきた。英智を結集しただけあって、素案はかなりの力作になっている。これをまとめた文化庁著作権課の方々は、年末年始は休みをとれなかったのではないか。誠にご苦労様でしたと申し上げたい。

素案は、柿沼太一弁護士が危惧するように、robots.txtで拒否してあるデータを学習に使ったら「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」にあたると解釈する事業者が現れるかもしれないことは否定できない。しかしまあ、全体としては納得できる文書だと思う。

ただ、一点とても気になるのは、小委員会の最後の最後に一委員から異論が出されて、結果的に素案の本文が変えられたらしい、以下の部分である(筆者は残念ながら、この部分を傍聴できなかった)。箇所でいうと、「5.各論点について (1)学習・開発段階 エ 著作権者の利益を不当に害することとなる場合の具体例について (イ)アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることについて」(20頁)になる。赤字の部分が1月15日時点案との相違部分になる。

○著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じることは想定しうるものの、当該生成物が学習元著作物の創作的表現と共通しない場合には、著作権法上の「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないと考えられる。他方で、この点に関しては、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じる場合、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当し得ると考える余地があるとする意見が一定数みられた。

これは、アイデア/表現をわけて、表現のみを保護する著作権の原則にかかわる大きな論点だろう。

先行作品とアイデアが類似する作品は、世の中に山のように存在する。主人公が異世界に転生する話、悪者にさらわれた姫を奪還する話、などなど、表現は違えど基本的なアイデアはおなじだ。共通のアイデアがひとつのジャンルを作り、そこに多様な表現が生まれて文化を豊かなものにする。それが文化の発展につながるから、表現は保護してもアイデアは保護しない、そういう作りに著作権はなっている。

アイデアが類似するものが大量にできるからといって、それで生成AIの規制につなげようとするのは筋悪だと思う。それがダメだというならば、一ジャンルを作る作品群も、最初の作品以外は存在してはならないことにならないか。

創作的な部分が類似した表現を流布したなら、著作権侵害に問うこともできるのだから、アイデア類似作品を大量に作ることができるからとの理由で、この技術を萎縮させるのは悪手と考える。

もっとも、この部分は委員のコンセンサスがとれたのではなく、「該当し得ると考える余地があるとする意見が一定数みられた」という、まわりくどい表現になっている。その程度の重みの意見であるならば、本文ではなく脚注が妥当だろう。

重要な論点なだけに、拙速に本文に盛り込むのではなく、もっと時間をかけて議論すべきではないか。