違法ダウンロード拡大:タイムライン・文化庁はどこで注文を間違えたのか?
本日(2019/3/13)、この法案の今国会成立を見送ることが自民党内で決定されました。ですが、これは先送りなので終わりではありません。
なので、どうしてこういうことが無理無理にでも審議会を通り、法案になって与党に示されてしまったのかを検証する必要があると思います。
文化庁はいったいどこで間違えたかの結論は出ていませんが、今後の検証のための情報源をまとめておきます。タイムラインは随時修正・更新していきます。
2018/6/22 知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)(第1回)
- 「資料4-1:タスクフォースにおける主な論点(案)」に「違法アップロードされた静止画のダウンロードを私的複製の対象外とすることについて」
2018/8/24 「タスクフォース」(第5回)において東大教授・宍戸常寿委員が「アクセス警告方式」を提案
- アクセス警告を出す法的根拠にするための「静止画ダウンロードの違法化」。
- このときは全著作物への拡大、刑事罰は想定されていない。
- 8/30「タスクフォース」(第6回)において追加説明。
2018/10/15 知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)(第9回)
- 海賊版サイトブロッキングの検討会議がここで決裂し、「中間まとめ」(案)に合意できないまま解散。議事録はこちら。
- 「中間まとめ」(案)では、「著作権を侵害する静止画(書籍)のダウンロードの違法化」については、留意点があるものの「直ちに検討を行うことが適当」(40頁)。(→この時点での対象はマンガのような静止画(書籍)であって、全著作物への拡大は想定されていない。)
2018/10/23 拙著コラム「海賊版サイトブロッキングが去って、静止画ダウンロード違法化がやって来る?」(→少しだけPRさせて^^)
2018/10/29 文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第4回)
- 「著作権を侵害する静止画(書籍)のダウンロード違法化について」が検討課題に急遽追加された。
- コンテンツ海外流通促進機構、日本書籍出版協会、日本雑誌協会からヒアリング。三者ともDL違法化を肯定。
- 「複数の委員が事務局から1月の国会を目指している旨のスケジュールを伝えられていたと証言」(→スケジュール優先の姿勢があった)
2018/10/30 知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会コンテンツ分野会合(第1回)
- タスクフォース座長メモ「さらに、関係省庁の連携も推進し、リーチサイト規制の法制化や、著作権を侵害する静止画(書籍)のダウンロードの違法化の検討を進め、加えて、 様々な側面から必要な制度設計の検討を進める。」
2018/11/9 文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第5回)
- インターネットユーザー協会からヒアリング。コンピュータソフトウェア著作権協会、ザ・ソフトウェア・アライアンスが意見書提出。後二者はプログラムの著作物を含めることを要望。(→対象範囲が拡大。)
2018/11/26 文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第6回)
- この回から議題が「著作権を侵害する静止画(書籍)のダウンロード違法化について」から「ダウンロード違法化の対象範囲の見直しについて」に変わる。
- これまで「著作物全般に拡大することを支持する意見が複数あった」
- インターネットユーザー協会から資料を追加提出、全国地域婦人団体協議会が意見書提出。(→事務局は後にこれらを「ユーザー側の団体からは……具体性な事例等は明確に示されなかった」とした(最終報告書68頁))。
2018/12/7 文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第7回)
- 対象を全著作物に拡大し、あまり限定の付いていない「中間まとめ」(案)を事務局が提示。
- 委員の意見に基づき主査が修正を約束するも、議事録未公表のまま3日後にパブコメ開始。
2018/12/10 「中間まとめ」(案)へのパブリックコメント公示
- 慎重意見に前もって反論する異例の文書を文化庁が公表。
- 違法と「確定的に知って」DLする行為を違法とし、有償著作物ならば刑事罰とする案。
2019/1/6 「中間まとめ」(案)へのパブリックコメント受付締切
- 結果まとめはこちら。DL違法化部分への意見は534件。
2019/1/15 平井卓也・特命担当大臣(クールジャパン戦略、知的財産戦略、科学技術政策、宇宙政策)・閣議後記者会見
- 「いや、もう、やるべきことは決まっているので、それをそのままやると。やれることからやるというだけです。」
- 「いや、今度の国会にも法改正出しますよ。ブロッキング以外の法律を出すということで、まずそこからですね。」
2019/1/22 朝日新聞が漫画家・竹宮惠子へのインタビューを掲載(→漫画家がメディアで公に懸念を表明したのは、たぶんこれが最初。)
2019/1/23 日本マンガ学会反対声明(→感覚的にはこれをきっかけに世論が動きはじめたと思う。)
2019/1/25 文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第8回)
- パブコメを受けた修正後の報告書案を提示。
- パブコメで出てきた慎重論を論難する異例の文書を事務局が提示。
- 東大教授・大渕哲也委員と弁護士・松田政行委員が報告書案に賛成。その他の全委員が懸念を表明し審議継続を求めるなか、事務局が主査預かりを提案し、2-3名の委員が「異議なし」とする(筆者が傍聴)。
2019/2/4 最終報告書案を公表
- 最終報告書案が小委委員に送られてきたのは1/29で、回答期限が翌日の18時だった。(→委員の多くを占める大学教員にとっては一年でも最も忙しい時期で、これはかなり無理で失礼な依頼である。)
- (→25日から29日までの間に、さらに要件を明確に限定するなどの、できたはずの軌道修正を事務局はしなかった。)
2019/2/8 違法ダウンロード範囲拡大を考える院内集会
2019/2/13 文化審議会著作権分科会(第53回)
- 最終報告書案を審議。共同意見書など異論多数出るも原案通り承認。
- 文化庁がこのときの大渕委員の賛成意見を4分割して水増しし、慎重意見を無視またはねじ曲げるなどした説明資料を2/22の自民合同部会に提出。
2019/2/15 自民党文部科学部会・知的財産戦略調査会合同部会に文化庁が改正案の概要を提出
2019/2/18 小島立・小委委員が自民党・馳浩衆議院議員と面談
- この時期の経緯についての朝日新聞の記事。
2019/2/19 専門家約100名による反対声明
- 違法化の要件に「原作のままの複製」、「権利者の利益を不当に害することとなる場合」を、刑事罰化の要件に「継続的に又は反復して」DLする場合を付けることを提言。
2019/2/20 自民党・馳浩議員が文化庁・水田著作権課長と面談
- 「原作のまま」「著作権者の利益を不当に害する」この二つの概念はどうして条文に落とし込まれていないのか?
2019/2/22 自民党文部科学部会・知的財産戦略調査会合同部会で審議
- 賛成意見水増しなどを含む資料を使って文化庁が説明。リーク資料はこちら。それに対する明治大学知的財産法政策研究所の検証レポートはこれとかこれ。
- 最終報告書で示された要件限定の選択肢のうち、刑事罰対象から二次的創作物を除外し、継続的に又は反復してDLする場合の二点のみを採用。
- 部会員から異論強く出るも、甘利明・知財戦略調査会長の強い押しで文化庁案を了承。
- 公明党文部科学部会でこの日承認か。
- 馳浩議員のブログ。
- この日前後から3/1総務会あたりまでのことは自民党・古川康議員のブログ「週刊yasushi 808号「著作権法改正案について与党議員の1人として考える」」(3/4)。
2019/2/27 日本漫画家協会反対声明(→これが流れを止める決定打でした。)
2019/3/1 自民党総務会に諮られるも、異例の部会差し戻し。
- 総務会は10分くらいで終わることもあるが、この日は90分くらいかかった(3/17明大シンポでの桶田大介氏の発言)。
- なぜ漫画家協会から意見を聞かないのだとの問いに、文化庁はその団体からはパブコメ出てなかったと。(→パブコメなんて無意味と思わず、出すことは大事。)
2019/3/6 自民党文部科学部会・知的財産戦略調査会合同部会で再審議
- コンテンツ海外流通促進機構、漫画家・赤松健氏からヒアリング。
- 修正なしで再了承。「政治論だ」と甘利氏。
2019/3/6(夜) 古屋圭司MANGA議連会長によると首相と電話で見送りを相談
2019/3/8 自民党総務会での審議を見送り。
2019/3/12 文化庁幹部が読売に「海賊版対策は元々、首相官邸主導だったはず」
2019/3/13 8時からの自民党文部科学部会・知的財産戦略調査会合同部会の幹部の会合で今国会提出の見送りを決定(→実は公明はすでに党内手続きを終えていたと産経が報道)
- 経緯についての情報は古屋圭司・衆議院議員のブログや山田太郎・元参議院議員のネット放送、甘利明議員のリポートにもある。
2019/5/10 大島九州男参議院議員提出の質問主意書(4/24提出)への答弁書公開
MANGA議連アドバイザー・桶田大介弁護士による3/17明大シンポでの経緯資料はこちら
JILIS・ALIS共催「第6回情報法セミナーIN京都」での前田健・小委員会委員の講演資料
以後のことは、「違法ダウンロード拡大:タイムライン・まき直し編」に掲載