2019年2月7日に共同通信から配信され、地方紙などに掲載された記事です。共同通信社の了解のもと公表します。

視標「ダウンロード違法化拡大」創作や研究、萎縮の恐れ 時代遅れの法規制だ

国際日本文化研究センター教授 山田奨治

インターネット上に違法にアップロードされた著作物を、そうと知りながら私的にダウンロードすることを違法にすると、文化庁の審議会小委員会が最終報告書にまとめた。ここでいうダウンロードには、スクリーンショット(画面保存)も含まれる。

この議論のもとは、ネット上の漫画海賊版への対策だった。それが被害の十分な検証もないまま、全ての著作物へと対象が拡大し、刑事罰まで付けられようとしている。

慎重審議を求める声が、法律家でつくる小委の委員と国民から上がる中、実質3カ月ほどの短い期間で審議が打ち切られた。そして、多くの懸念を残したまま、拙速に報告書がまとめられた。

漫画海賊版対策のための著作権法改正案を、今国会に出すことが政府の方針である。そのためには、2月初旬までに報告書をまとめなくてはならなかった。文化庁は懸念の解決よりも、政府のスケジュールを重視したと言われても仕方あるまい。

報告書では、委員や国民からの危惧の声を少しは拾い、海賊版と確定的に知ってダウンロードする場合に違法化を限定し、刑事罰の対象は有償の著作物に限るとしている。さらに限定を付けるか否かは、法案作成者にげたを預けている。つまり、肝心な部分は、これから水面下で決められるということだ。

画面保存のように、多くの国民が広く行っている行為に、法の網をかけることには、極めて慎重であるべきだ。普通の国民は「違法かも」と思えば、画面保存を避けるようになるだろう。それによって、私的な創作や研究、社会問題についての情報収集などが萎縮する。

一方で、画面をいったんプリントして、それをデジタル化するのは合法だというから、あぜんとしてしまう。

漫画海賊版対策として、小委が2年以上かけて審議してきたのは、海賊版サイトへのリンクをまとめた「リーチサイト」を規制することだった。最終報告書のこの部分は、異議なく承認された。

違法ダウンロード拡大よりも、リーチサイト規制の方が、海賊版対策に効果があるだろう。そして何よりも効果的な対策は、納得できる価格で正規版を読むことができる、出版社横断型のプラットフォームを早く立ち上げること、言い換えるならば、海賊版サイトの「先進性」に早く追いつくことだ。

わたしが特に残念に思っているのは、違法な著作物から私的使用目的で便益を享受しようとする行為には疑義があると、文化庁が切り捨てたことだ。こうした考え方の背景には、著作物を買って読む・見る・聴くだけの古典的な消費者像があるのだろう。

現代の消費者は、著作物をダウンロードし、加工してアップロードし、それをまた誰かがダウンロードして加工する。この新しい「創造のサイクル」を妨げる法規制は、もはや時代遅れだと言えよう。

私的使用を「便益」という経済概念でくくることにも、違和感がある。人間の内面は、幾多の著作物からできている。カラオケのように、誰かの著作物を使って自己表現することもある。著作物の使用は、実は人間の「生」の深い部分に直結することなのだ。